
・走っていて辛くない
・終盤になっても失速しない
・トレーニングの時間はたくさん取れないけど、より良い走りにしたい。
そんな方々に向けて「効率のよいランニングフォーム」を作るポイントをシリーズでお伝えしています。
今回意識すべきポイントは「丹田」です。
「体幹を鍛えることは大事」
このような言葉を耳にしたことのあるランナーの方々は多いのではないでしょうか?
書店やネットで見かける情報にも「体幹トレーニング」を取り扱ったものは多いです。
ランニングのためだけに限らず、様々な理由で体幹トレーニングは取り上げられています。
体幹トレーニングを行うことでランニングパフォーマンスが向上したり、不調が改善するきっかけとなることは事実。
このように、体幹トレーニングを行うメリットは沢山あります。
もはや万能薬かのようなトレーニング方法として扱われている「体幹トレーニング」。
「体感トレーニング」にも、実はちゃんとしたやり方があります。
このやり方を知らないと、「もったいない体幹トレーニング」になってしまっている可能性もあります。
特に「効率のよいランニングフォームを作ること」を目的として体幹トレーニングを行う場合は、意識すべきポイントがあることをご存知ですか?
そのポイントを意識しないと、もったいない「残念な体幹トレーニング」になってしまっているかもしれません。
残念な体幹トレーニングとならないためのポイント、それが「丹田」です。
そして、「丹田」を意識することで効率のよいランニングフォームを作ることができます。
・丹田っていったい何なのか?
・丹田を意識すべき理由。
・丹田を意識するための具体的な方法
これらをご紹介します。
トレーニング方法だけ知りたい方は以下をクリックすることで記事内のトレーニング箇所へ飛びます。
目次
効率のよいランニングフォームとは?
まず始めに、「効率のよいランニングフォーム」について手短かにお話させてください。
効率のよいランニングフォームと言っても捉え方は人それぞれ。
私がお伝えしている「効率のよいランニングフォームつくるシリーズ」では、その定義を「疲れづらくて、より速く前に進めるランニングフォーム」とした上で、必要なポイントをご紹介しています。
前回の記事では「疲れづらくて、より速く前に進む」為に必須の基本ポイントを2つご紹介しました。
- 「上半身の位置」
- 「地面を押す方向」
この2点がとても大事なポイントです。
詳細は前回の記事をお読み頂けたらと思います。
前回の記事:ランニングフォームを矯正しよう①効率の良いフォームになるには骨盤を意識することが重要!
では、さっそく今回のポイントである「丹田」について、体幹トレーニングの話も交えながらご紹介致します。
効率的なランニングフォームになるためのポイントである丹田とは何か?

「丹田」は「おへその下あたり」のことです。(写真中の赤丸のあたり)
丹田とは、内丹術という中国の伝統的な修行方法において重要と考えられているポイントです。
厳密には「三丹田」と言って、
・眉間のあたりの「上丹田」
・胸の中央あたりの「中丹田」
・へその下あたりの「下丹田」
の3つに分けられています。
「疲れづらくて、より速く前に進めるランニング」においてポイントとなる丹田は「下丹田」です。
この「下丹田」は、解剖学的には「腹筋」のある場所です。
腹筋が大事であるということは、既に常識かもしれません。
私も腹筋は大事だと思います。
腹筋は、4つの筋肉で構成されています。
・腹直筋
・外腹斜筋
・内腹斜筋
・腹横筋
図:腹筋群の解剖
【左:腹直筋】【中央:内腹斜筋(左側)・外腹斜筋(右側)】【右:腹横筋】
(注:図中では、右か左のどちらか片側にしか筋が掲載されていませんが、腹直筋、内・外腹斜筋、腹横筋いずれも全て、からだの左右両側に存在しています。)
Helen J.Hislop, 他:新・徒手筋力検査法 原著第8版. 協同医書出版社, 2008, pp46-56より引用。
図:腹筋群の筋線維走行方向
【緑:腹直筋】【赤:外腹斜筋】【青:内腹斜筋】【紫:腹横筋】
越智淳三(訳):解剖学アトラス 第3版. 文光堂, 1990, p47より引用
この4つが、からだに存在する腹筋たちです。
この4つの腹筋は全て大事です。
いずれの筋肉にも役割があり、からだをコントロールする為にしっかり仕事をしています。
体幹トレーニングに詳しい方は、腹筋の中でも「特に腹横筋が大事」といった話を聞いたことがあるかもしれません。
この腹横筋と今回のポイントである下丹田は、位置関係的にとても近いのです。
下丹田を意識することは、ある意味「腹横筋」を意識することに近いかもしれません。
効率のよいランニングフォームにするために丹田を意識した方がいい2つの理由
丹田を意識することで、効率のよいランニングフォームとなります。
繰り返しますが、「疲れづらくて、より速く前に進むランニングフォーム」を作る為に必要なポイントは2つです。
- 上半身の位置
- 地面を押す方向
では、それぞれのポイントと丹田の関係をお伝えします。
理由1.上半身の位置が安定するため
丹田を意識することで上半身の位置が安定します。
上半身が後方に傾くことは非常に効率が悪いということを前回の記事でお伝えしましたが、丹田を意識して、そこに力が入るようになってくると、上半身が後方に傾くことを防ぐことができます。
常に進行方向に進みやすい上半身位置となり、これが効率のよさに繋がります。
理由2.消費エネルギー効率をよくすることができるため
地面を押すことで、からだは前に進んでいきます。
地面を押す力は下肢によって生み出されます。
下肢の力によって進みたい方向に効率よく進むためには、地面を押した時に「骨盤の位置がズレてしまわないこと」が大事です。
丹田を意識して、そこに力が入るようになってくると、骨盤の位置がズレずに正しくキープすることができるようになります。
すると、地面を押す方向と進行方向が一致して、無駄の少ないランニングが可能となります。
また、丹田に力が入ることで、からだのブレを最小限に食い止めることも可能となります。
からだが左右にブレてしまうことは、まっすぐ前に進みたいランニングにおいては無駄でしかありません。
地面を押す方向が一致しなくなるだけでなく、からだが左右にブレてしまうと、左右のブレをコントロールすること自体に余計なエネルギーも使ってしまいます。
丹田に力が入ることで、この余計な動きを最小限に食い止めることが可能となります。
【必見】丹田を鍛える際に注意したい大事なこと
丹田のある位置は腹筋と一致します。
では、腹筋鍛えるぞ!と意気込んでも、丹田の位置ではない「みぞおちあたりの腹筋」を鍛えまくってしまうと、ランニングに非効率をもたらす可能性があります。
大雑把にいえば、腹筋自体は体幹を安定させる作用があります。
それは「丹田あたりの腹筋」も「みぞおちあたりの腹筋」でも同じです。
しかし、みぞおちあたりの腹筋が頑張りすぎてしまった場合、それは「効果的な安定」ではなく「非効率的な固定」に繋がってしまう恐れがあるのです。
みぞおちあたりの腹筋は、肋骨の下の方にくっついています。
この腹筋たちが頑張りすぎると、肋骨を引っ張りすぎてしまい、「胸郭」の拡がりを抑えてしまいます。
「胸郭」とは、肺を取り囲んでいる肋骨と背骨の部分のことです。
胸郭が広がることで、肺には酸素が取り込まれやすくなります。
つまり、胸郭の動きの自由度が肺への酸素の取り込みに関係するわけです。
胸郭が楽に動けるためには、肋骨の自由な動きが保たれている必要があります。
しかし、みぞおちあたりの腹筋が頑張りすぎると、肋骨は引っ張られ続けて動けなくなってしまいます。
肋骨の動きの低下が胸郭の拡がりを抑制してしまい、酸素の取り込まれやすさが低下する分、非効率的となってしまうのです。
それだけでなく、胸郭の動かしやすさが損なわれると、腕の振りにも悪影響が及びます。
胸郭は「肩甲骨」の土台です。
肩甲骨がしっかりと動いて、力の抜けた柔らかな腕ふりを行うためには、胸郭が動きやすい状態であることが重要なのです。
「みぞおちあたりの腹筋」でガチっと固められた胸郭では、柔らかな腕ふりが難しくなり、ランニングにおいては非効率的なものとなります。
体幹トレーニングは「上の腹筋」と「丹田」で分けることが大事!
前の項でお伝えした通り、腹筋には「みぞおちあたりの腹筋」(上の写真中の青丸)と「丹田」(上の写真中の赤丸)とに分けることができ、それぞれが行える仕事の質が異なります。
もしも6つに割れた見事な「板チョコ腹筋」が欲しい場合は、みぞおちあたりの腹筋をしっかり鍛える必要がありますが、効率のよいランニングフォームを作る為には、「丹田」を意識して鍛える必要があるのです。
体幹トレーニングと言われているものをただ単に行えばよい、というわけではありません。
体幹トレーニングと言われているものを「丹田」を意識して行うと、ランニングにおいてのメリットが大きくなります。
しかし、「みぞおちあたりの腹筋」を使い過ぎた体幹トレーニングでは、逆効果かもしれません。
冒頭で述べた「残念な体幹トレーニング」ではなく、効率のよいランニングフォームに繋がる「丹田を意識した体幹トレーニング」を行ってみましょう。
丹田を意識した体幹トレーニング紹介
では、丹田を意識した体感トレーニングをいくつかご紹介いたします。
今回紹介するトレーニングは「寝っ転がれるスペース」さえあれば、どこでもできます。
日ごろの鍛錬としてだけでなく、ランニング前のウォームアップの際にも行ってみてください。
尚、筋肉や関節に故障や不安のある方、血圧に問題のある方、呼吸器に問題のある方は、かかりつけの専門家にご相談の上、実施してください。
丹田を意識した体幹トレーニング初級編①
初級編①のやり方
- あお向けに寝て、鼻から息を大きく吸います。
- しっかりと息を吸ったら、口から「細く・長く」息をはき続けます。
- 徐々に「丹田」に力が入ってくることを感じ取ります。
- 「丹田」に力が入ることをしっかりと確認したら、また息を吸います。
- この呼吸を5~10回繰り返します。
丹田を意識した体幹トレーニング初級編②
初級編②のやり方
- あお向けに寝て、両膝を直角の状態で下肢を持ち上げます(写真上段)。
- 片方の下肢は直角を保ったまま、もう片方の下肢をまっすぐ伸ばしていきます(写真下段)。
- 丹田にしっかりと力が入っていることを確認しながら、伸ばした状態を3秒キープします。
- 片側5回ずつ、両下肢で計10回行います。
初級編②の注意点
写真上段:OK
写真中段:腰が反りあがって、背中が弓なりになった状態。
写真下段:背中が丸まってしまう。または、膝が伸びきっていない状態。
丹田を意識した体幹トレーニング発展編①
発展編①のやり方
- 初級編②と同じように下肢を伸ばすと同時に両手をバンザイします。
- まずは写真上段のように、タオルを持って行って下さい。慣れてきたらタオル無しで(写真下段)。
- 丹田に力を入れたまま、手足と背すじをしっかりと伸ばして、3秒キープします。
- 片脚5回ずつ、計10回行います。
発展編①の注意点
丹田を意識することは必須です。丹田の部分に力が入る感じが弱い方は、初級編①を繰り返し行って「丹田の意識」を高めて下さい。
丹田を意識した体幹トレーニング発展編②
発展編②のやり方
- 「プランク」という体幹トレーニングの代表的種目です。まずは、つま先と肘から先の腕を地面につけた状態で、からだを地面と水平に保ちます(写真上段)。
- からだを水平に保ったまま、10秒キープします。合計10回行ってみましょう。
- 余裕のある方は、片方の下肢を床から離します(写真下段)。
- 同じくからだを水平に保ったまま、5秒キープします。片脚5回ずつ、計10回行ってみましょう。
発展編②の注意点
写真上段:OK
写真中段:腰の位置が高いままで、からだが水平になっていない状態。
写真下段:腰が反ってしまい、背骨が弓なりになっている状態。
このようなスタンダードな注意点に加えて、このトレーニングにはもう1つ重要な注意点があります。
それは、以下の写真の通りです。
大事なポイントは「地面を真っすぐ真下に押すこと」です。
写真ではつま先しか写っていませんが、肘でも「地面を真っすぐ真下に押すこと」が大事です。
正しく行うためのイメージとしては、写真下段のように、つま先や肘下に敷いたタオルにシワができて、タオルがよれてしまわないように行う感じです。
丹田への意識を高めるトレーニングとして、この発展編②までを是非ともモノにして下さい!
体幹トレーニングではしっかりと丹田を意識して、ランニングに効果的な補強となるようにしましょう!
「疲れづらくて、より速く前に進める」
そんな効率のよいランニングフォームを作るには、おへそより下にある腹筋あたりの「丹田」を意識する必要があります。
体幹トレーニングはランニングパフォーマンスの改善において効果的な方法ですが、形だけ真似して何となくやっても意味がないことがあります。
みぞおちあたりの腹筋を積極的に使った方法では、体幹を鍛えることはできても、ランニングパフォーマンスには繋がらないどころか、悪影響を及ぼすことも考えられます。
体幹トレーニングのやり方は、
・本
・雑誌
・インターネット
などでいくらでも見つけられます。
ただ単にやり方を真似してやれば良いというわけではなく、目的に応じて適切に行うことが重要です。
ランニングパフォーマンスに効果的な体幹トレーニングは、「丹田」を意識して行うことです。
体幹トレーニングを通じて丹田への意識が高めましょう。
継続的なトレーニングを通じて、丹田をフル活用した身体の動かし方が身につきます。
丹田が機能した身体の使い方は、「効率のよいランニングフォーム」へと繋がります。