
疲れづらくて、より速く前に進める。
そんな「効率のよいランニングフォーム」を作るためのポイントを、シリーズでお伝えしています。
初回は「骨盤」、前回は「丹田」
そして、今回のテーマは「肩甲骨」です。
肩甲骨もランニングにおいて注目されることが多い部位ですね。
肩甲骨に関してよく見かける言葉としては、
・肩甲骨の動きが大事!
・肩甲骨をしっかり動かしましょう!
このように、肩甲骨は「動くこと」が大事とされていますね。
しかし、いったいどのように動くことが大事なのか?
ちゃんと把握されていますか?
「しっかり肩甲骨を寄せたりできることが大事なんじゃないの?」
果たして本当にそうでしょうか?
しっかりと肩甲骨を寄せることが正解でしょうか?
背筋を伸ばして、肩甲骨をしっかり引いて、腕をしっかり振って・・・
一見良さそうですが、実は「効率の悪いランニングフォーム」になってしまうリスクも合わせ持っています。
今回はそんな「リスク」についてお話させてもらうと同時に、肩甲骨の動きを「効率のよいランニングフォーム」に繋げるための理論と実践をご紹介したいと思います。
目次
そもそも肩甲骨とは?
有名な骨ではありますが、肩甲骨ってどんな骨なのかご存知でしょうか?
そして、どんな動きに関係するのかご存知でしょうか?
上の図は背中側から骨を見た図です。
この図のように、肩甲骨は背中の上のほうに存在している骨です。
肋骨の後ろ側に張り付いているような感じです(図中右、赤色の部分)。
そして、上の図は前面から骨を見た図です(図中右、赤色の部分が肩甲骨)。
この図のように、肩甲骨は「上腕骨」という腕の骨の土台でもあります。
つまり、腕が動くためには肩甲骨が無ければならないのです。
腕の動きと肩甲骨は、切っても切れない関係にあります。
もしも肩甲骨が無ければ、これほど大きく腕が動くことはありません。
肩甲骨特有の構造特徴
肩甲骨には、もう1つ特徴があります。
それは、「主に筋肉で支えられている」ということです。
からだの中の骨と骨の境目は「関節」と言います。
・すねの骨と太ももの骨の境目は「膝関節」
・太ももの骨と骨盤の境目は「股関節」
・肩甲骨と腕の骨の境目は「肩関節」
このような「関節」と言われている部分は、独自の構造で骨同士がズレないようになっています。
ズレないようにする為の有名な構造物は「靭帯」です。
靭帯は伸びづらくて切れづらい「強固なヒモ」のようなものです。
これが、骨同士をしっかりと繋いでくれています。
その結果、関節を動かしても骨同士は位置をキープし続けることができます。
では、「肩甲骨」と「肋骨」の間はどうでしょうか?
骨と骨の境目ですが、実はここは「関節」ではありません。
肩甲骨は全て筋肉でおおわれていて、靭帯などが存在していないのです。
肩甲骨と肋骨の間は、膝や肩などの関節構造とは異なっています。
胴体と肩甲骨を繋いでいるのは、そのほとんどが「筋肉」です。
・よく言えば「制限が少なくて自由」
・悪く言えば「制限がないためにコントロールに難しさがある」
肩甲骨の動きは筋肉次第です。
それが解剖学的にみた肩甲骨の特徴です。
「肩甲骨の動き」とは?
肩甲骨の動きは、上下・左右・回転運動も含め、下の図のように自由に動くことができます。
Helen J.Hislop, 他:新・徒手筋力検査法 原著第8版. 協同医書出版社, 2008, p64より引用。
よく耳にする「肩甲骨をしっかり寄せて」というのは、全方向に動ける肩甲骨の動きの1部分でしかありません。
それなのに何故「寄せること」が重要視されるのか?
その理由は、私見ではありますが、
「皆さんの普段の姿勢が悪いから」だと思います。
・デスクワーク
・携帯
・パソコン作業
・長時間の椅子生活
これらは全て「猫背」のきっかけになります。
猫背状態での肩甲骨は、本来の位置ではなく、異常な位置に留まることを強制されます。
猫背になると、肩甲骨は外に広がって、上方向にズレてしまうのです。
そして、そのような悪い姿勢状態の継続により、ズレた位置が定位置となってしまいます。
このようにズレてしまった肩甲骨を正しい方向へと導く動きが、「肩甲骨を寄せる」「しっかり胸を張る」という言葉となります。
「肩甲骨を寄せる」という言い方をしたほうが都合がよい場合が多い。
その為、「寄せること」がフォーカスされやすいのではないかと思います。
実際のところ、肩甲骨は「寄せること」だけが大事なわけではありません。
寄せるだけが肩甲骨の動きではありません。
肩甲骨は「全方向にしっかり動かせること」が大事なのです。
「非効率なランニングフォーム」と肩甲骨を寄せることの関係
寄せればよいっていう訳ではないことは、ここまでにお話しした通りです。
しかし、姿勢が丸まりがちな現代人の多くの方にとっては、寄せることで肩甲骨は良い位置へと誘導されます。
なので、寄せることが「ポジティブな結果」へと繋がることが多いのも事実だと思います。
しかし、冒頭でお話しした通り、背筋を伸ばして、肩甲骨を寄せて、しっかり腕を振ってしまうと「非効率的なランニングフォーム」に繋がることも事実なのです。
その理由を説明しますね。
まず、効率的なランニングフォームの重要ポイントを軽くおさらいします。
- 上半身の位置
- 地面を押す方向
これがポイントです。
ポイントについての詳細はこちら⇒ 過去記事:「ランニングフォームを矯正しよう①」
このうち、肩甲骨の動きと関係性が強いのは「上半身の位置」です。
ランニングで前方向へと進むためには、上半身が後ろに残らないことが重要です。
しかし、肩甲骨の寄せを意識し過ぎるがあまりに、上半身を後ろに引っぱってしまうことがあります。
・胸を張る。
・肘を後ろに引く。
・肩甲骨を寄せる。
これらの意識のし過ぎは、上半身を後ろへと引っ張ってしまいます。
下肢は一生懸命に前へ行こうとしているのに、上半身は一生懸命後ろへ引こうとしている。
この状況は、まるで「引っ張り癖のある犬の散歩のようなもの」です。
無駄の多い走りそのものとなってしまいます。
肩甲骨の動きを「効率のよいランニングフォーム」へと繋げるために重要なこと
ここまでにお話ししたように、肩甲骨を寄せ過ぎると非効率的なランニングフォームになってしまう危険性が高まります。
しかし、肩甲骨がズレがちな現代人にとって、しっかりと寄せられるようになることがランニングフォーム改善につながる可能性があることも事実です。
また、その他にも肩甲骨を動かすメリットはあります。
肩甲骨が動くことで「やわらかい腕振り」が可能となります。
やわらかい腕振りは、首回りや腕の緊張を和らげて、余計な疲労感を生じさせません。
・走っていると首が凝る
・走っていると背中が張る
・走っていると腕が疲れる
こんな症状を感じる方は、肩甲骨が動いていないかもしれませんね。
このように、リスクとメリットが同居する肩甲骨の動き問題。
では、いったいどうすればよいのか?
1つの解決策はこれです。
「肩甲骨の動きを意識して、上半身の動きを誘導すること」です。
いったいどういうことなのか、説明しますね。
肩甲骨の動きを正しく意識しよう
「肩甲骨の動きを意識して、上半身の動きを誘導する」について説明します。
効率のよいランニングフォームの為には、「上半身の位置」が後ろにズレないことが大事です。
肩甲骨を寄せることを意識し過ぎてしまうと、上半身の位置が後方に引っ張られて良くないのです。
腕振りは「前後運動」です。
前後運動のうち、肩甲骨を寄せるという「後ろ方向だけの動き」を意識するからよくないわけです。
「前方向」へも肩甲骨の動きを意識してあげましょう。
左腕を引いたとき、右腕を前へ送る。
右腕を引いたとき、左腕を前へ送る。
そして、腕を引くときも、前へと送る時も「肩甲骨の動き」を意識するのです。
手先の「こぶし」に意識を向けて、腕を前後に振るのではありません。
腕の付け根の「肩甲骨」に意識を向けて、肩甲骨から腕を前後に振るように動かすのです。
肩甲骨から腕を動かすことを意識してあげると、結果的に胴体(肋骨と背骨)からねじれの動きが生じます。
このような「胴体からの回旋運動」が、効率のよいランニングフォームへと繋がります。
ちなみに、これを高いレベルで達成するためには「下腹部の力による骨盤の安定」が必須です。
「下腹部の力による骨盤の安定を目的としたエクササイズ」は、前回記事「丹田を意識しよう」で取り上げていますので、併せてぜひお読みください。
前回記事リンク⇒ 「効率の良いフォームを作るには丹田を意識しよう!」
効率のよいランニングフォームの為に、肩甲骨を上手に利用しよう。
効率のよいランニングフォームの為に、肩甲骨の動きは重要です。
しかし、「しっかり引く・しっかり寄せる」という動きだけに注目し過ぎると、かえって効率の悪いランニングフォームとなってしまうことがあります。
肩甲骨は、寄せることだけが大事というわけではないのです。
肩甲骨の動きを正しく意識して、前方向への動きも意識することで、胴体からの回旋運動を誘導することができます。
この「胴体からの回旋運動」によって、軸がぶれず、上半身をリラックスさせた腕振りが可能となり、効率のよいランニングフォームとなります。
では、【前編】はここまで。【後編】ではエクササイズ実践です!
効率のよいランニングフォームへと繋がる「肩甲骨を意識したエクササイズ」を行っていきましょう!
では後半では実際にエクササイズしてみましょう!